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■ IT時代と子どもの人格形成(3)

 本日は「IT時代と子どもの人格形成」の第3回目、最終回です。

<2000年に相次いだ17歳の凶悪事件をご紹介します。>
@西日本で西鉄高速バス乗っ取り事件を起こした17歳の少年Mは、チャットで暴言を投げ合い、犯行前に「こいつらみんなぶっ殺してやる」と書きこみました。
A横浜市内のJR電車内で見知らぬ男性をハンマーで殴打した17歳の少年Nは、やはりチャットで「バスジャックなんて甘い」「明日、太陽が昇ると同時に世界を絶句させてやる」と書き込みました。
B愛知県で近所の67歳の女性を、ただ「平和ボケは嫌だ。殺しを経験してみたい」というだけの動機で殺害した17歳の少年Sは、取り調べ検事に「可哀そうだとは思わないのか」と問われて「だってもう死んでるんでしょう」と何の感情も示さなかったそうです。
 問題点は、こうした少年たちは、ネット上でヒーローを気取り、不特定の相手をこきおろすことで、自分が王者であると自己顕示をする。バーチャル(仮想)世界の自分をそのまま現実の社会に持ち込んで、そこには「大変なことをしてしまった」と言う意識がないのです。

<この2000年に、精神分析学者の小此木啓吾氏は、少年凶悪事件の特質などを分析して、ネット漬けになると、その便利さや面白さゆえに、次のような罠にはまる危険があると指摘しました。>
@匿名で別人格になり、人間としての品位も倫理観もない言葉を平気で発信する。
Aボタン操作ひとつで相手や世界を思うように動かせる全能感(オムニポテンツ)を持ってしまう。その繰り返しで、自己中心的な性格に陥りやすい。
B嫌になったら、すぐに相手との関係を切ってしまう。
 この3つの罠のうち、AとBはすでにゲーム漬けの子どもたちに起きていた問題と共通するものがありますが、@の匿名で自由に情報を発信することによる人格の変化という問題は、ネット社会になって新たに生じた負の問題です。

<もう1つ注目すべきは電子メディアに接触している時間が長いことです>
 今の子どもたちは、一緒に遊ぶ友達がいないし、1人っ子であることが多い。そこで塾に行く以外は大半を家でテレビを見、ゲームをしている。その結果、言葉で気持ちを伝えたり、じっくりと考える能力が育たず、感情の分化・発達もしないので、人格に大きなゆがみが生じることになります。
 寝屋川市家庭教育サポーターの魚住絹代氏が2005年に行った、ゲームなどのメディアが子どもたちの生活や人格形成にどのように影響を与えているかのアンケート調査のデータを、精神科医である岡田尊司氏は、さまざまな角度から分析して次のような分析をしています。
@幼い時期に親の愛情不足があった子ほど、ゲーム漬けになる傾向が強い。
A小学校に入る前からゲームを始めた子ほど、中学生になってもゲーム依存の傾向が強い。
B1日のゲーム時間が長いほど、無気力・無関心の傾向が強い。
 岡田氏は、最近の小中学生から高校生など十代後半に至る少年たちは、生身の人間同士の接触があまりに少ないがゆえに、心の発達が6〜8歳のレベルで止まっている傾向が顕著だと論じています。
 この「心の発達が6〜8歳のレベル」とは、
@現実と空想の区別が十分でなく、結果を予測する能力が乏しい。
A相手の立場・気持ちを考えて思いやる共感能力が未発達である。
B自分を客観的に振り返る自己反省の気持ちが生じにくい。
C正義と悪という単純な二分法にとらわれやすく、安易にどちらかに突っ走りやすい。
などの傾向があるということです。

 IT時代の現代において、子どもたちの人格をこのように形成させないためには、乳幼児期から親らがたえず抱きしめるなど愛情・愛着を示すことの重要性と、子どもたちの電子メディアへの接触をコントロールする必要性の認識を強く持つことが必要だと思います。
(柳田邦男氏の乳幼児保健講習会での講演についての論考より。)