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■ IT時代と子どもの人格形成(2)

 本日は「IT時代と子どもの人格形成」の第2回目です。
 前回お話しした、1998年の尾木氏による4〜6歳の子どもたちについての調査結果から、@夜型生活A自己中心的Bパニックに陥りやすいC粗暴D基本的しつけの欠落D親の前でよい子になる、傾向のある子どもたちが、自我が表面に出てくる小学校高学年になると、どのような人格構造を持った少年少女になるのかが非常に不安です。そしてこの不安が的中した象徴的な事件が2004年に起こりました。皆さんご記憶の、佐世保市の小学校6年の11歳の少女が、校内で同級生を殺害した事件です。そしてこの頃、この世代の少年少女による事件が多発しました。
 長崎家裁佐世保支部の最終審判決定要旨によれば、この少女の人格特性として、次の4点が指摘されました。@自分の気持ちを言語化するのが苦手。A幼少期に抱っこなどを甘えて求めることが少なく、ひとりでおもちゃやテレビを見て過ごすことが多かった。親から愛されているという安心感が希薄だったため、他者に対して愛着を持つことができない。感情の発達が未分化で、怒りや悲しさの感情は抑圧してしまう。B文章の文脈、相手の人物像を全体的に理解するのが苦手で、断片的な言葉にとらわれてしまう。C怒りの感情は、抑圧するか爆発的に相手を攻撃するか、両極端な対処行動しか持ち得なかった。
 少女にとって、安心して自己を表現し、存在感を確認できる唯一の「居場所」は、生身の友達との交遊ではなく、交換ノートやインターネットだった。そして、ホラービデオやホラー小説で、攻撃的な自我を増幅させていった。この少女は、親の愛着の示し方の希薄さと現代のメディア環境の影響を一身に凝縮して体現した子どもと見ることができ、被害者とは違った意味で悲惨です。
 柳田邦男氏は、この事件の構造を知って、あらためて、乳幼児期に親あるいは保育者がたえず抱きしめることで示す愛着の重要性と、子どもの電子メディアへの接触のコントロールの必要性を認識させられたとおっしゃっています。そして、親が我が子に毎日絵本を読み聞かせることが、親と子の愛着関係を取り戻し、子どもの心の発達(言語力・感情の分化発達)のためにも重要になっていると確信したと言われています。柳田氏は、2カ月に1度位の割合で、各家庭が1週間の「ノーテレビ・ノーゲーム・デー」「ノネット・デー」を実践することを提唱されています。その実践報告では、家族の会話が増え、親が子どもの友達のことや心の発達に気づくようになったということです。IT時代に大人も子どもも、生活の主体性を取り戻すうえで、示唆に富む話です。
(柳田邦男氏の乳幼児保健講習会での講演についての論考より。)