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■ 団塊ジュニア世代に望むこと

 団塊の世代の子どもたちが、71年から74年までの第二次ベビーブームに生まれ、団塊ジュニアと呼ばれている。その世代は、高校進学率が100%、90年の大学進学率が男子33.4%、女子が15.2%に達し、短大進学率を合計すると37.4%にもなる。この世代は小さいころから個室を与えられ、塾やおけいこごとに通わされ、子ども部屋にはエアコンやオーディオがあり、子機付の電話機やポケベルも普及していた。このように親世代は子世代に多くの金をかけてきたが、子世代は感謝するより親からの当然の贈与だと思っている。
 問題は、彼らが大学を卒業する90年代半ばにバブル景気がはじけて就職氷河期に直面したこと。学卒者の就職内定率が著しく下がり、新卒時から非正規就労の労働市場に投げ込まれる若者が増えた。それでも若いうちはアルバイトやフリーターでもいずれ正社員になれるという期待をもてたが、日本企業の景気は回復せず、入り口で一旦つまずくと敗者復活戦は難しく、低賃金の不安定就労が固定化したまま、最早若者でない年齢に達した。この人たちをロスジェネレーションと呼ぶ。
 2010年代の今日、団塊ジュニア世代は、30代後半、もうすぐアラフォーになる。この人たちは、男女とも婚姻率が低く、男性は3人に1人、女性は5人に1人が独身で、この非婚状態はおそらく生涯続くと予想されている。だから団塊の世代の親には祖父母になれない、いつまでも結婚せずに家を出て行かない子どもを持っ人が多い。
 団塊ジュニア世代は団塊世代よりも学歴は上がっているが、それは人口の半数近くが大学・短大に進学するようになったからで、彼らの能力が高くなったからではない。それに対し増えた大学生の数に見合うだけの職を労働市場が用意できなかっただけでなく、雇用の規制緩和を推し進めて非正規雇用を増やした。非正規雇用は女性で全労働者の55%、男性で19%、平均で30%。首都圏では親の家から世帯分離するのに年収400万円以上必要と言われているが、不安定な非正規就労しかない子どもたちは、エアコンやパソコンが設置された、団塊世代が子どもの頃よりはるかに快適な生活をおくれる自分の個室部屋がある親の家から出ていけない。娘たちも結婚願望を持っていても、稼ぎの悪い男と結婚して家を出れば、確実に親の家で自分が享受している生活水準より落ちるので出て行かない。 団塊ジュニア世代は、豊かさのただ中で生れ育ってきたので、今あるものはあってあたりまえ、なくなることは考えられない、なくなることへのおそれや不安は団塊の世代の親よりも強い傾向にある。団塊世代は、今まではそういう子どもたちを居候即ちパラサイトさせておくだけのゆとりがあったので家においていた。
 しかしその親たちもやがて年をとり、定年を迎え、年金生活者となった。そのうち要介護者になる。アラフォーになりつつある団塊ジュニアの子どもたちは、結婚適齢期を過ぎて介護適齢期を迎えつつある。親が経済的ゆとりを失って親というインフラを失ったら、団塊ジュニアたちは非正規就労の独身のまま安定した仕事も収入もなく、将来の年金も保障されない。それなのに彼らには驚くほど危機感が薄く、問題を政治化できないままここに来ている。団塊世代の親は子どもたちに魚の釣り方を教えなければならないのに、釣った魚を与え続けてきた。このようなジュニアを育てた団塊の親たちは子育てに失敗したとしか言いようがない。
 世界に例のない超高齢化社会を迎えるにあたって、今の社会制度のまま今後の超高齢化を乗り切ることは不可能。団塊の世代が、最先端性能を数年先の製品に義務付ける独自政策によって日本を世界一の省エネ技術大国にしたように、団塊ジュニア世代には、世界に先駆けた最先端ビジネスと超高齢化対応の新しい社会システムを作りあげて欲しい。例えば、若者の減少で人手不足の企業が、年金を貰いながら安い賃金で働ける高齢者を活用するというような新しい雇用形態を生みだす。一大勢力となった働く高齢者層向けの趣味、娯楽、健康、食品、介護サービスの市場を開発し活気づかせる起業が相次ぎ、巨大な新しい高齢者市場を生みだす。高齢者層が働き健康志向になれば、年金や医療の社会保障負担も膨らみにくくなる。団塊ジュニア世代や若者の税負担もそれほど重くはならないであろう。また、OECD諸国の中で日本はアメリカに次いで国民負担率の低い社会と言われているが、もっと国民負担率を挙げることも考えざるを得ないのではないか。
 団塊の世代の1人である私は、団塊ジュニアの世代や若者達に、これらのことを提案し、自分たちの運命は自分たちで切り開く自己統治を行い、自分たちの安心や安全は自分たちの手で作り出して欲しいと訴えたい。
(この原稿を書くにあたっては上野千鶴子著・みんな「おひとりさま」や朝日新聞の記事を参考にさせていただきました。)