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■ 「おひとりさま」の老後

 超高齢化社会では、長生きすればするほど「おひとりさま」の老後が待っている。男性はこれまで、自分の方が妻より先立つのだから「おひとりさま」になるのは妻の方で自分は関係ないと他人事のように思ってきた。しかしデータで見るとそれは根拠のない思い込みで、高齢シングル問題は女性問題だけでなく男性問題でもある。65歳以上生き延びた男女の寿命は平均寿命より長く、男82.43歳、女87.44歳。80歳に達したときに生存している割合は男で半分、女で4分の3。配偶者が存在している率は80歳以上の男の10人に7人、女の10人に2人、裏から言うと80歳以上の男の10人に3人は配偶者がいない。しかも80歳以上の高齢者の独居傾向は強まっており、単身世帯率は34.6%、そのうち男の単身世帯率は18.5%で、80歳以上の男の6世帯に1世帯が単身世帯。手のかかる高齢男性は女性高齢者より子どもから同居をいやがられるからでしょうか。
 それでは、高齢男性はシングルになっても再婚すればよいではないかと言うと、その可能性は高くない。シングルになった女性は、結婚は1度でたくさんと思っている人が多く、ほとんどの高齢者既婚女性は遺族年金を貰っており、いまさら生活保障のために再婚しなくても暮らしていけるし、介護要員としてあてにされるのを喜ばない。では資産がある高齢男性はどうかと言うと、相続のことを考えて子どもは親の恋路の邪魔立てをする。配偶者に先立たれた男性は、その後は「おひとりさま」の覚悟が必要です。そして、高齢「おひとりさま」の女性問題は主として貧困だが、男性問題は貧困に加えて、生活無能力、社会ネットワークからの孤立と、もっと深刻です。
 私と同じ年齢の社会学者上野千鶴子さんは、男性は自分が弱者になる将来を見たくも考えたくもないという思考停止の人が多い。「生涯現役」の思想でバリバリやってきた人ほど、老いることや寝たきりになることは考えない傾向が強い。右肩上がりの人生を信じてきた人は、自分にしっぺ返しをされるだろう。老いるということは弱者になることで、昨日できたことが今日できなくなり、前線から撤退し、戦線を縮小し、他人から忘れられ、下り坂の人生が待っている。健康で老いをむかえられればまだしも、後遺症が残るような脳梗塞になれば、中途障害の暮らしが始まり、他人の助けがなくては排せつも入浴もままならなくなる。そしてゆっくりと死に向かう。高齢者が死ぬ前に寝たきりになる平均期間は8・5カ月で、介護することもされることも人生の射程に入れなければならない時代に入っている、と言っています。
 また、介護については、研究の結果、介護サービスの商品市場では市場淘汰が働かない。つまり高い金を払ったからと言って必ずしも高齢者にとって良い介護が得られるとは限らない。介護保険制度には数々の問題もあるが、それでもないよりは有る方がずっとよい、その介護保険のもとでも、サービス提供事業者はピンキリで、先進ケアで有名なモデル施設を全国訪ね回って分かったことは、良い介護サービスは、金さえ出せば手に入るとは限らない。モラルの高い労働者が低い労働条件のもとで働くことによって支えられている。この担い手のモラル即ち士気や意欲は、高齢者の役に立ちたい、喜ぶ顔が見たいという「志」によって支えられている。良い介護を期待できる事業体は、民間営利企業ではなくNPOのような市民事業体。と上野さんは断言しています。
 最後に、「おひとりさま」の老後に小さな朗報をお知らせします。1人暮らしの高齢者が増加する中、病気や認知症で1人暮らしが難しいのに、施設や病院にも入れない終末期のお年寄りが介護スタッフらの支えを受けながら共同で暮らす「ホームホスピス」が増えつつある。その背景には、医療費抑制のために6ヵ月以上病院に入院させないという国の方針と、特別養護老人ホームの入所待ちの多さがある。ホームホスピスは、家庭的な雰囲気の中で穏やかに暮らし最期を迎える場として期待されている。例えば、姫路市の「ほほ笑みの森」は、看護師や介護士らで構成する団体が、家を借りて運営し、5人の入居者が個室で暮らし、約10人のスタッフが交代で24時間常駐して生活を支援する。費用は月10万円程度、医師の往診や介護サービスを受けるには別途医療保険や介護保険の自己負担分が必要。ここの管理者である看護師は、姫路市内の病院で看護師として働いていたが、25人ほどの患者を受け持ち、会話や食事の介助がゆっくりとできず機械的に患者に接してきたことを悔い、このホームホスピスを立ち上げた。お年寄りに寄り添い、きめ細やかなお世話をしたいという思いから。
(この原稿を書くにあたっては上野千鶴子著・みんな「おひとりさま」と朝日新聞‘13・2.6の朝刊を参考にさせていただきました。)