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■ 老老介護

 このところ、子ども世帯との同居率が著しく下がり、夫婦が揃っている間は夫婦で助け合って子どもの世話にならないという老老介護の流れが定着しています。厚労省の`10の調査では、同居介護者380万人のうち、137万人が65歳以上。男性の介護者は3割。妻の介護を担う夫が増えています。
 2月18日の朝日新聞に、「私が先に死ねば妻が困る。疲れた」という表題で、老老介護の末に96歳の夫が認知症の91歳の妻を絞殺した衝撃的なニュースが載りました。夫は元警察官、妻は元看護師。長年2人で仲睦まじく暮らしていた。3人の子どもがいるが交流はここ数十年ほぼなかったという。認知症の進む妻は‘07年頃から週2回の訪問介護の利用を開始。介護士の訪問のない日は夫が妻のおむつの交換や洗濯、料理などの世話をし、妻は昼夜徘徊するため、夫は24時間付添った。夫も目や耳が悪く、足腰が弱って杖が手放せず、‘08年9月に「要支援2」と認定された。それでも夫は、妻の面倒は自分が見る、と頑張っていた。‘11年1月からは妻は寝たきりになり、7月には最も重い「要介護5」に認定された。事件直前の今年の1月下旬、訪問介護の回数を1日朝昼2回から3回に増やした。一方この頃夫も衰え、2月に入ると食事を作れなくなり、夫も配食サービスを利用し始めた。夫は今冬の寒さで体調を崩し、体力の限界を感じていたようで、気力もなくなっていた。「自分が先に死んだら妻が心配だ」と不安を口にするようになっていた矢先の犯行で、犯行後「私が先に死ねば寝たきりの妻が困る。介護にも疲れた。」と漏らしており介護が限界だったことを伺わせます。
 警察庁の統計では、介護・看護疲れが動機となった殺人事件は‘07年30件、‘10年57件、‘11年54件と増加傾向にある。調査では、加害者の6割が60歳以上で、7割が男性。家事などに慣れていない男性が介護に身構えて行き詰るケースが多いと言います。
 介護者には3つの特徴があり、@「介護は家族がすべきもの」と言う考えに本人も周りも縛られている点、A支援が必要なのにそれに気づかず、自分が助けてもらえると思っていないこと、B介護が突然始まり、困りごとが整理できず誰に何を相談したらいいのかわからないこと。介護者は、こういった状態で追いつめられ孤立すると、介護殺人や自殺、虐待に結びつきます。現行の介護保険は、介護する人の状態や環境は考慮されず、従来の制度だけでは、追い詰められた介護者の助けにはなりません。また、大島渚を介護した小山明子のように、うつ病になる介護者も多いといいます。厚労省の‘05年のアンケート調査では、在宅介護を担う65歳以上の約3割が「死にたい」と感じたことがあると答えています。相談に乗ったり助言したりして介護者の不安を和らげたり、孤立させない支援が必要です。
 先進国では、‘90年以降、被介護者だけでなく、介護者を支援する考え方が浸透してきています。英国では、高齢者を介護する家族などの無償の介護者をケアラーと言い、このケアラーを支援する専門機関・ケアラーズセンターがあり、チャリティー団体が運営し、英国内に150ヵ所あるそうです。家族介護の経験者が職員やボランティアとして活躍しており、支援のメニューが豊富で、親が介護施設に通っている間に、介護から離れてリフレッシュしてもらおうと、絵画教室、ヨガ教室、セラピー、マッサージなどを提供しています。費用は民間施設よりも安く設定され、経済的に苦しい人にはセンターが代金を肩代わりすることもあるようです。家庭内介護でストレスが溜まり、家族関係に問題を抱えるようなときは、家庭訪問をしたりカウンセラーとの面談の機会を作って心理的な負担を軽くするように努めているそうです。
 介護者は、自分が病気や怪我をしたとき、代わりに被介護者をケアしてくれるサービスや経済的支援、仕事との両立支援、休息への支援を求めています。
日本でも、悩み相談などで介護者を孤立させない支援や、介護者の年齢なども勘案した介護サービス、介護者の支援の要望に応じられるサポートを提供する仕組みが必要です。
参考になる自治体の取り組み例としては、神奈川県泰野(はたの)市は、高齢夫婦の介護の場合や介護者が精神的に不安定と判断した場合、臨時雇用の看護師が定期的に電話や訪問をしています。
 厚労省は、自治体独自の介護者支援の取り組みに補助金を出し、また、‘06年度から介護保険費の2%を上限に「家族介護支援事業」を実施しており、‘10年度は約85億円を計上し、介護に関する知識や技術を習う教室、認知症高齢者の見守り訪問、介護者の健康診断や介護用品の支給などを行い、‘11年度には延べ3981の自治体が活用したということです。
(朝日新聞の介護に関する複数の記事を引用または参照して纏めました。)