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■ 305万人の認知症の人たちが尊厳を持って生きていける社会を(3)

 高齢者への虐待は、2011年度、1万6700件と前年度とほぼ同じ件数です。施設より圧倒的に「家庭内」。家庭で高齢者を虐待した人の約6割が男性で、息子が41%と最も多く、夫18%、娘17%です。40代・50代がほぼ同数で合わせると50%、老々介護と見られる70〜80代が約2割。介護している相手を虐待した人が約7割。日常的に介護している主たる介護者が半数を占め、「介護に協力してくれる人がいなかった」は6割、「協力者・相談する人もなかった」は約3割、介護疲れや悩みについては「とてもある」が5割近く、「ややある」を含めると4人に3人に上ります。経済的困窮が伺えるケースが半数、虐待を受けていた人の48%は認知症のお年寄りで、虐待で亡くなった人も21人います。
 2006年4月から、「高齢者虐待の防止・高齢者の養護者の支援に関する法律」(高齢者虐待防止法)が施行されています。この法律は認知症の方に限った法律ではなく65歳以上の高齢者が対象となりますが、実際には認知症の方を守る場合が多いと思います。
 虐待を防止すること、虐待を受けた高齢者を迅速かつ適切に保護すること、養護者に対する適切な支援をすることが、国、地方公共団体、国民の責務とされていますが、特に市町村が第一義的に責務を負うことになっています。
 虐待する者として、虐待者の7割前後を占める家族介護者等の養護者だけでなく、要介護施設等の職員も対象と定義されています。世間では、老人ホーム等で働く職員は福祉の専門知識を持ち入居高齢者への人権意識も高く良いケアを提供していると思っていますが、過去の福祉施設内での虐待調査では、約3割の施設で高齢者虐待が発生していました。このため、介護老人福祉施設・介護老人保険施設・介護療養型医療施設の介護保険3施設だけでなく、広く、各種老人ホームや高齢者が利用するデイサービスの通所施設、訪問介護サービスに従事する職員も対象とされました。これらの職員は人権や虐待については素人なので、虐待の専門知識や対応技能に関する研修を充実させる必要があります。
 虐待の種類は、身体的虐待、心理的虐待、性的虐待、ネグレクト、は児童虐待と同じですが、違うのは経済的虐待が入っていることです。即ち、高齢者の家族等が高齢者の財産を不当に処分したり、高齢者から不当に財産上の利益を得ることも虐待となります。
 高齢者虐待を発見した者は、その高齢者の生命・身体に重大な危険が生じている場合は速やかに市町村に通報しなければなりません。通報を受けた市町村長が、その高齢者の生命・身体に重大な危険が生じていると認めるときは、地域包括支援センターの職員に高齢者の居所に立ち入らせ、必要な調査・質問をさせることができます。立入調査の際、必要がある場合は警察署長に援助を求めることができます。
 厚労省が行った高齢者虐待調査では、虐待の発生原因のうち、虐待側の要因が約4割、高齢者側の要因も約3割強あり、虐待する側にも被害者の一面があるようです。こうした虐待発生の構造から、高齢者の人権救済と共に、虐待に走る可能性のある養護者の心身等の介護負担の軽減を中心とする支援施策が必要で、市町村は、養護者に対する相談や、負担軽減を図るため緊急の必要があると認める場合は高齢者が短期間養護を受けられるよう居室確保の措置を講じなければなりません。
 私の意見ですが、高齢者虐待防止法と児童虐待防止法は同じような法構造になっているにもかかわらず、児童虐待は抵抗できない幼い子どもの生命身体に大きく影響し保護の必要性が高度で、且つ虐待発生の要因が100%虐待者側にあることが理由なのでしょうか、児童虐待防止法は例えば通告義務の強化や通告に誤りがあっても免責される等、近年数次にわたって児童保護の方向において改正が行われているのに対し、高齢者虐待防止法は制定以降改正がなされておりません。私は、児童虐待防止法の改正によって到達したレベルぐらいの改正は、高齢者虐待防止法にも行うべきだと思います。
また、虐待防止活動は、市町村の行政機関だけでは効果的な推進事業は困難です。このため高齢者虐待防止法では、市町村は地域包括支援センターを中心として地域のあらゆる関係機関や民間団体等と連携協力体制(虐待防止ネットワーク)を整備することになっていますが、まだまだ不十分です。児童虐待防止法にも同じような虐待防止ネットワークがありますが、児童の場合のレベルよりも連携整備が遅れているように思います。是非これらの整備を促進すべきだと思います。
(この原稿を作成するにあたっては、田中荘司氏の「高齢者虐待防止法の運用と課題」の論考・人権のひろば50号・を参考にさせていただきました。)