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■ 305万人の認知症の人たちが尊厳を持って生きていける社会を(2)

 高齢化社会が進む日本社会において、高齢者をいかに支援するかが大きな問題となっています。前回に引き続き、成年後見制度の運用についてお話したいと思います。
 成年後見制度は、認知症高齢者(知的障害者、精神障害者も同様です)のような判断能力が不十分な方が、家庭でも、地域社会でも、従来と同じように生活し、活動できるように支援するための制度で、「本人の意思の尊重」、「残存能力の活用」、「ノーマライゼーション」の理念を取り入れた制度です。「ノーマライゼーション」とは、判断能力の不十分な人を施設に隔離せずハンディのない人と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする考え方です。認知症高齢者らが誇りをもって生きていけるようにするための制度と言えます。
 前回この成年後見制度は、認知症の方の財産を守る制度とご紹介しました。
成年後見制度が動き出した当初に後見人に選任されたのは主として親族で90%を占めていましたが、前回紹介した子どもが親の財産を取り込むという弊害が生じてきていることから、家庭裁判所は現在では、第三者を成年後見人に選任する割合を増やしており、2010年では、親族後見人が58.6%に対し、それ以外の第三者が41.4%となっております。この第三者成年後見人には、普通弁護士や司法書士が選ばれており、沢山の財産がある認知症高齢者の場合であれば、成年後見人にこれらの資格者を選任することが適切だと思います。
 しかし他方、成年後見制度の役割は本人の財産保護の役割だけでなく、「本人の利益保護」、「本人の意思の尊重」、「本人の心身の状態及び生活の状況の配慮」に重きを置く制度でもありますから、成年後見人の役割としては「身上監護」も重要な役目となります。
 にもかかわらず、身上監護の手助け等が必要で成年後見人が選任される必要があるのに、本人の財産が乏しくて申立費用や後見人へ支払う報酬の捻出が困難な認知症高齢者も沢山おります。
 このような資力のない認知症高齢者に対応するために、京都市は、2012年4月から、成年後見人選任申立費用等を支給して成年後見制度の利用を促進するための京都市成年後見制度利用支援事業を発足させました。これからは同じような事業が各自治体で発足するものと期待されます。
また、資力のない認知症高齢者のための他の対応としては、近時、弁護士等の資格を持たない「市民後見人」と呼ばれる一般の人たちが成年後見人に選ばれており、注目されています。職業経験や社会経験を積んだ中高年齢者で、ボランティア精神を基盤とし、成年後見の活動を通じて社会貢献を志している人たちで、後見人に選任された社会福祉法人やNPO法人を構成する人たちです。このような市民後見人が注目を集めているのは、成年後見の職務の中心が、特にその身上監護(本人の心身の状態や生活状況に応じて適宜の措置をする)にあるという認識が次第に高まってきているからで、且つボランティア精神を基盤としているため費用も安いのが普通です。
 身上監護が後見人の基本的な役割であるという認識に立つと、その実行に当たっては、本人の親族だけでなく、その地域の人たちや資源、即ち近所の人たち、地元の自治体、社会福祉協議会、地元の施設・病院・薬局、ケアマネージャー、ヘルパー、病院のカウンセラー、民生委員、などと連携し、支援を受け、活用することが不可欠です。そうであれば、地域に密着した市民後見人こそが、後見人の役割を最も果たせる存在だと言えると思います。市民後見人がそうした役割を果たすことができるならば、成年後見制度をとっかかりとして、我が国の社会で失われたといわれる「地域社会」をもう一度復活させる機縁となることも可能ではないでしょうか。
 最後に、「本人の意思の尊重」を最もよく具現化する仕組みとして、将来の自分のために後見人になってくれる人を予め選任しておく「任意後見制度」が創設されたことをご紹介しておきます。(この原稿を作成するにあたっては、小池信行弁護士の「台頭する市民後見人」の論考・人権のひろば82号・を参考にさせていただきました。)