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■ 305万人の認知症の人たちが尊厳を持って生きていける社会を(1) | |
2012年の認知症高齢者の予測は305万人で、65歳以上の10人に1人、80歳以上の4人に1人が認知症患者と言われ従来の予想を上回るペースで増えています。2020年には400万人を越える見通しです。団塊の世代が65歳以上の高齢者になるこの2012年という年は注目されています。団塊の世代は、競争ばかりの厳しい人生を送り、日本経済の発展を支えた世代で、親を看る最後の世代で、子どもから看てもらえない最初の世代といわれていますが、その団塊の世代が2012年から順次65歳以上の高齢者になっていくので、当然認知症患者も増えるでしょう。このために、認知症にいかに対処していくべきかについての議論が盛んになっています。 認知症の方は、虐待されても、親族から財産を盗まれたり悪徳商法の犠牲者になっても、いつ、誰から、どこで、どんな被害に遭ったのかを言えません。認知症の世界は、犯罪の犯し放題の法の暗黒領域の世界と言われてきました。 これではいけないと、高齢者の虐待に対処する高齢者虐待防止法が制定されましが、これについては後日お話しすることにし、今日はもう一つの認知症の方の財産を守る制度についてお話し致します。 子どもによる親の財産侵奪が問題になっています。親よりも自分の生活が大切なため、その子どもがかってにどんどん親の財産を自分の方へ取り込んでいく、あるいは財産を取るために自分のところで親を抱え込む、そして親を大切にするどころか、できるだけ金が掛らないよう、できるだけ金が減らないように、病気でも医者に診せず、施設にも入れないなどです。こういう財産侵奪を防ぐために、介護保険制度と並んで、成年後見制度が平成12年からスタートしました。 この制度は、「家」の財産を守る今までの禁治産者制度とは全く異なる発想で、認知症高齢者(知的障害者、精神障害者も同様です)のような判断能力が不十分な方を、家庭でも、地域社会でも、従来と同じように生活し、活動できるように支援するための制度です。北欧の社会福祉制度の理念である「本人の意思の尊重」と、「残存能力の活用」、判断能力の不十分な人を施設に隔離せず、ハンディのない人と一緒に助け合いながら暮らしていくのが正常な社会のあり方であるとする「ノーマライゼーション」の理念を取り入れた制度です。認知症高齢者らが誇りをもって生きていけるよう支援をすることが後見人の役割となります。 「 残存能力の活用」とは、認知症になって脳の機能の一部が欠落しても、残存している能力はまだ沢山あるし、欠落しているように見えていても、認知症の方を尊厳ある人間として扱うと能力が回復してくる症例が確実にあるそうです。この成年後見制度は悪徳商法などの取引被害からも高齢者を守ります。 ところで先ほど、子どもによる親の財産侵奪が多く、そのために成年後見制度ができたと紹介しました。しかし成年後見制度が運用されるようになった後も、後見人に子どもや親族が選任されることが多いので、後見人による横領などの不正行為が増加しています。2010年6月から2011年9月の16ヶ月の間に、306件約35億4000万円の被害が出たそうです。そこでこのような不祥事を防止するために、「後見制度支援信託」が2012年2月から導入されました。 この後見制度支援信託とは、被後見人の財産のうち、日常使用しない大半の金銭を信託銀行に預け、親族後見人は日常的な支払をする金銭のみを管理し、信託銀行から引き出すときは家庭裁判所の許可がいるという仕組みになっています。 (この原稿を作成するにあたっては、堀田力弁護士の「認知症と人権」の論考・人権のひろば51号と2012.8.24付朝日新聞夕刊を参考にさせていただきました。) |