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■ 青少年の薬物乱用

 本日は、「夜回り先生」と呼ばれている高等学校教諭水谷修先生の講演と、弁護士木原万樹子さんの論説及び朝日新聞の論説を引用させていただいて、薬物乱用、特に青少年の薬物乱用問題を考えてみたいと思います。
 薬物の広がりは、社会の安定をゆるがし、本人を蝕み、ときには幻覚が引き起こす重大事件によって落ち度のない被害者を生み、犯罪組織の資金源にもなります。
 薬物乱用は、シンナーや覚せい剤だけではありません。日本では、個人医院で薬が儲けになるので大量の薬を患者に出すのと、薬好きの日本人の性格が合わさって、処方薬や市販薬の乱用・依存が広がっています。薬物乱用防止教育は、小学校低学年から親と一緒に薬の危険性、薬剤師の指導の必要性、安全な薬の使い方から教える必要があります。
 そうでないと、薬物の二つの言葉、「やるとやめられないもの」、「やると捕まるもの」にハマってしまいます。
 もう1つ、薬物の二つの顔は恐ろしい。一つ目の顔、薬物は何の努力もなしに偽の快感が手に入る「微笑みかける天使の顔」。二つ目の顔が、「死神の顔」。即ち薬物は人間を三回殺す。一つ目は、意欲、気力、優しい思いやりの心を殺す「心の死」。二つ目が、頭の中は薬物のことしか考えられない「頭の死」、三つ目は、使い続けて「肉体の死」。
 薬物は、不幸な人ほどはまっていくそうで、子どもたちは叱られ続けて来ており、自己肯定感が少ないから、薬物が若者の間に非常に入りやすい状態になっているそうです。
 このような薬物依存に陥るのは、例えば気持ちがしんどい時、疲れがたまっている時などに、お酒を飲んだり煙草を吸ったり甘いものに走るといったストレス解消の延長線上から、歯止めがかからなくなる行動制御障害へ陥る、即ち病気だと理解すべきです。
 にもかかわらず現実には、治療の面からかけ離れた刑事司法手続きによって単に懲役刑等の処分がなされているだけで、薬物依存者に対する対応としては全く誤っていると指摘されています。本当に必要なのは、薬物依存者に病気を治療する機会を与えることであり、世間の人に薬物依存症と言う病気に対する理解を深めてもらうことだそうです。専門の精神科医は、参議院の参考人として、薬物依存症を病気ととらえて、それをどう克服するかと言う意識を社会全体でもたなければ問題は解決しないのに、受け皿となる医師や病院は限られ、診療報酬も低いと、答弁しています。
 実際日本には、薬物専門病院は十ヶ所ほどしかなく、特に十代の子どもを信頼して預けられる病院は3つしかないそうです。竹村医師のやっている民間の「赤城高原ホスピタル」、「神奈川県立精神医療センターせりがや病院」、佐賀県にある「国立肥前療養所」で、3つとも開放病棟で、それが大事だそうです。ほかには、民間の施設で「ダルク」という、自らが薬物乱用者だった子供たちが、回復して後輩たちの面倒をみるというグループが全国に30数か所あるそうです。また、自助グループがミーティング活動を行っているそうで、2011年では京阪神でミーティング活動を行っているところが40ヵ所ほどあります。
 もし周りに薬物依存症の問題を抱える人がいるならば、まずは各県の精神保健福祉センターに繋げること、このような薬物専門病院にかかること、「ダルク」や自助グループによるミーティング活動に参加することを、勧めて欲しいということです。少しでも早期に自分に合った治療法を見つけることが回復に繋がるという確信を持って。
 毎年6000人以上が新たに服役する薬物犯罪。息の長いフォローが更正の鍵を握ります。そのための一方策として、刑事司法手続において、今までのように単に懲役刑を科すだけでなく、治療を前提とした刑法の改正が試みられています。再犯率の高い薬物乱用者に治療を受けさせることを想定して、例えば懲役2年のうち、1年6カ月は刑務所で服役させ、残り6カ月については2年間の執行猶予とし、この2年の間に保護観察官の監督の下で薬物回復治療を受けさせるなどの例です。この法案は参議院を通過しましたが、政局の混迷で衆議院で止まったままです。是非この刑法改正を成立させると共に、合わせて、更正保護行政と、医療や福祉などの関連施策を着実に進めさせることが必要です。