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■ リベラルアーツ教育を取り入れる大学が増えている

 アメリカではリベラルアーツ・カレッジと呼ばれる人文科学・自然科学・社会科学及び学際分野に渡る基礎的な教養教育のみを行う4年生の大学があります。「学際」とは、最先端研究の方向性を考えるとき従来とは異なった観点・発想・手法・技術などが新たな成果を生み出す例が多いことから、従来あまり結び付かなかった複数の学問分野にまたがって研究することをいいます。ハーバードなどアイビーリグに属する8大学などがそのリベラルアーツ・カレッジで、教養学部しかありません。リベラルアーツ・カレッジでは、少人数指導の中で基礎的な教養を磨くと共に物の考え方を養うことに重点を置き、4年間で幅広く教養を学び、その後専門を習得するために研究総合大学の大学院や専門職大学院、メディカルスクール・ロースクール・ビジネススクール等の大学院への進学を前提としています。
 日本の大学教育は、1・2年の教養教育と3・4年の専門教育で構成されています。1991年、大学の自主性を尊重する改革を行った結果、期待に反して専門教育中心で教養教育が軽視される風潮になりました。これにより、専門知識はあるが社会性や常識、教養が身に付いていない卒業生が社会に送り出され、企業の採用担当者のアンケート結果では、学生のコミュニケーション能力と考える力の不足が指摘されました。
 この様なことから、文部科学省の中央教育審議会は2002年、大学の教養教育をもっと重視すべきであるという方向性を打ち出しました。また経済産業省を中心として、専門的知識だけに偏らない社会人に必要とされる汎用的な力を養成しようという発想から、大学で社会人基礎力を積極的に育成しようとする動きもあります。また近年では、社会で要請される知識は理系・文系の枠に収まらないものが増え、また同じ文系でも様々な専門分野を融合した能力が求められる職業も増えていることから、1つのテーマを複数の学際的な視点から学ぶとか、1つの専門領域を深く学びつつ、それを支える複数の学問的領域を学ぶ必要性も指摘されています。
 このような経緯から、日本の大学でもリベラルアーツ教育を取り入れる大学が増えています。学士課程の枠内で、人文科学・自然科学・社会科学を包括する基礎を習得させることを目的とし、グループワークによる問題発見と解決に取り組む型の授業、積極的にディスカッションを取り入れる授業、プレゼンティションを頻繁に行う授業、1つの専門を深く狭く追及するのではなく幅広い視点や学際的視点が重視される授業等の試みがなされています。企業からは、こうしたリベラルアーツ教育によって、自分とは専門の異なる他者と協働する時に必要とされる能力が開発され、創造性を発揮し汎用性の高い人材が生まれることが期待されています。
 リベラルアーツ教育を掲げる大学は、国際基督教大学、慶応大学SFCの総合政策学部、早稲田大学国際教養学部、大分の立命館アジア太平洋大学、関西大学社会安全学部等増えています。その内の1校である秋田の国際教養大学の中島嶺雄学長によれば、日本の大学は国際社会で後れを取っている。いま改革しなければその差は益々開いていく。日本の大学の問題点は、幅広く深い知識を身につける教養教育が失われたこと。世界に伍する大学では、専門を越え総合的に考え、発信できる力をつけようとしている。語学力を含めた教養教育は人格形成に欠かせない。学部で教養を醸成した上で大学院や企業で専門知識を身につければよい。我が校の理念は、世界で活躍できる人材の養育。授業は少人数制で全て英語、1年間の留学や留学生との共同生活を義務付けている。猛勉強が必要で4年で卒業できる学生は約半分だが、卒業生の就職率はほぼ100%で一流企業も多い(読売新聞H25.1.6)と言うことです。
 日本ではこのような学部卒業後の大学院進学率は低いようですが、それでも十分通用しているそうです。しかしグローバルな人材として見た場合は、アメリカのリベラルアーツ・カレッジ出身者に比べれば、大学院に進学しない分専門的知識が弱いと指摘する声もあります。ともあれ、このようなリベラルアーツ教育を受けた学生は、頻繁なディスカッションやプレゼンティションによってコミュニケーション力が、頻繁なグループワークによる問題発見と解決授業によって考える力が身に付くということですから、現代の若者の弱点を克服するには有効な方策だと思います。(教育ジャーナリスト友野慎一郎氏の、インターネット情報「文系でもない理系でもない新しいリベラルアーツとは」を参考にさせていただきました。)