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■ アハメドくんのいのちのリレー

 つい最近、パレスチナ・ガザ地区の空爆停戦合意ができたところですが、今日は、田中作次RI会長の「奉仕を通じて(世界)平和を」のメッセージに適っている、鎌田實さんが書かれた「アハメドくんのいのちのリレー」という絵本を素材にしてお話しいたします。鎌田實さんは、ご存知の方も多いと思いますが、医師で作家です。常々「人間は99%自分や家族のために生きていい。でも1%だけ、誰かのために、他人のためにできることをしてみよう」と提言され、自身も、長野県諏訪中央病院の医師として「住民とともに作る地域医療」の最前線で取り組み、長野県を長寿県に変えることに尽力されました。そのかたわら、自身が理事長をしている日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)で、1991年より21年間、放射能汚染地帯へ96回医師団を派遣し、約14億円の医薬品の援助を行い、自身が代表をしている日本イラクメディカルネット(JIM-NET)で、2004年よりイラク支援を開始し、イラクの4つの小児病院へ毎月300万円の薬を送り、難民キャンプで診察等を実践しておられます。また今回の東日本大震災でも、多くのボランティア活動を立ち上げ、被災地の支援に取り組まれています。まさに「奉仕の心」を自ら体現されておられる方で、私の尊敬する方です。鎌田さんには多くの著書がありますが、そのうちの「がんばらない」がテレビドラマ化され、西田敏彦が主演したことがあるので覚えておられる方もあると思います。今年の4月から、日曜朝10時のラジオ番組「鎌田實×村上信夫日曜日はがんばらない」が文化放送で放送されています。
 さて、2005年、イスラエルとパレスチナの紛争中に、パレスチナ自治区に住む12歳のアハメドくんが、イスラエル兵の誤射により脳死状態になりました。少年の父イスマイルさんは、悩んだ末、同じ12歳のイスラエルの少女サマハちゃんへの心臓移植を決意しました。鎌田さんは、新聞でこの記事を読んで、わが子を殺した敵国の子に臓器を提供した父イスマイルさんに会いたくなって、5年がかりで探し当て、2010年パレスチナとイスラエルを訪問したそうです。父イスマイルさんは、「川でおぼれている人がいたら、国も宗教も関係なく飛びこんで助ける。それが人間だ。」と鎌田さんに言われた。鎌田さんはこの言葉を聞いて、民族や宗教が違っても、憎しみをもたらす現実があっても、人と人はわかり合い、助け合うことができる。武力ではなく、こうした人と人の繋がりの積み重ねが、平和をつくる力になるのではないかと考えて、絵本「アハメドくんのいのちのリレー」を書いたそうです。そして、平和になる一助となればと願って、2012年、現地を再訪し、アラビア語、ヘブライ語、英語に翻訳したこの絵本を現地で配りました。
 2010年に鎌田さんがサマハちゃんに会ったとき、少女は、将来医療関係に進み、心臓提供の恩返しをしたいと志を語ってくれましたが、今回再会したときは、志望通り看護学校に進んでいました。そして、サマハちゃんは、将来看護師としてパレスチナに赴き、多くのパレスチナ人を助けたいと語ったそうです。
 鎌田さんは、「占領の事実を認めない限り憎しみを横に置けない」と考える多くのパレスチナ市民と対話しました。しかし、イスマイルさんのような、広い心が平和を築くと「憎しみや怒りを横に置く」ことを肯定する人々も沢山いる。将来このサマハちゃんに助けられた多くのパレスチナ人から「憎しみや怒りを横に置く」人々が増えて行くことを願って、この絵本を配り続けていくそうです。
 深刻なパレスチナの現状を考えると、絵本を配る行為がはたして和平に効果あるのかと言う疑問もあるかとは思いますが、小さなことから一歩ずつ。この絵本が、イスラエルやパレスチナの地域だけでなく、多くの紛争地域や、自分たちは平和だと思っている世界中の人たちにも広く読まれるようになれば、この絵本は世界平和に貢献する力となるのではないでしょうか。